『カラマーゾフの兄弟』より 『小悪魔リーザの自己欺瞞』

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富裕な地主のホフラコワ夫人の14歳の一人娘リーザは、小児麻痺にかかり

車いすの生活をしていた。

 

奇跡による小児麻痺の治癒をへ願って母娘はゾシマ長老のもとへ通う。

 

ゾシマは、信仰心の薄いホフラコワ夫人に自覚を促す意味で

「自分の身近な人たちを、あくことなく、行動によって

愛するように努めてごらんなさい。

愛をかちうるにつれて、神の存在にも、霊魂の不滅にも、

確信が持てるようになるでしょう」

(『カラマーゾフの兄弟』新潮文庫 上巻 P134)

とアドバイスした。

 

ゾシマは、ホフラコワ夫人へ、年頃のリーザに自己犠牲を伴った実行的な愛を捧げるように

婉曲的に、諭しているのだ。

 

それなのに、ホフラコワ夫人は、抽象的な人類愛ばかり考えている。

 

そして、結果的に、娘をネグレクトしている。

 

母の愛に飢えているリーザは、その反動で、ゾシマの最愛の弟子である

見習い修道僧、アリョーシャを誘惑してからかう非道な仕打ちをする。

すべては、サディズムからである。

 

アリョーシャは、リーザが好きなのだが、彼の実践的な愛は

リーザにとっては炭酸の抜けたシャンパンみたいで物足りない。

なぜものも足りないかというと、彼女の望んでいるものはもっと激烈な献身だからだ。

 

彼は、リーザと結婚の約束までしてくれる。

彼女を少女でなく、一人の人間として尊敬してくれる。

 

しかし、リーザは、母親のようなアリョーシャの愛には満足できない。

母親の愛は、歪んだ母親の矯正された状態から受け取りたいのだ。

 

リーザは、アリョーシャの兄であるイワンに手紙を書き、密かに自宅に招いた。

 

そして、リーザは、無神論者であるイワンに、子どもを磔にして、

その前に立ってパイナップルの砂糖漬けを食べたいという背徳的な妄想を告白する。

 

イワンはそのリーザの告白を聞いて《素敵だ》と理解を示した。

 

アリョーシャにも同じ話をする。

彼が嫌悪感を隠せず、リーザを軽蔑してくれるよう・・・・・・。

 

しかし、本心は、アリョーシャを嫉妬させるためだった。

彼女は、本心で背徳的なことを望んでいるのではない。

しかし、背徳的であることを自己欺瞞として演じているのだ。

 

リーザは、アリョーシャに軽蔑されたいのだ。

 

さらには、イワンしか理解してくれないであろう

背徳的な自己欺瞞を、アリョーシャに打ち明けることで

彼の心に、イワンへの嫉妬が生まれることを計算していた。

 

イワンへの嫉妬にもだえ苦しむアリョーシャの堕落した姿をリーザは、見たいのだ。

 

要するに、この小悪魔、リーザは、アリョーシャを心理的に支配したいのだ。

 

天使のようなアリョーシャを人間の卑劣な苦しみに、もだえさせたいのだ。

 

男の嫉妬こそが女への愛の証だと、彼女は勘違いしている。

それも自己欺瞞だ。

 

大切なアリョーシャの心をかき乱し、めちゃめちゃにしたいのだ。

それが、自分を愛するアリョーシャに課せられた義務なのだ、とリーザは自己正当化するのだ。

 

しかし、そんなリーザの自己欺瞞をみぬいて、アリョーシャは、

彼女の卑劣さも恥知らずも、すでに赦していた。

 

だから、嫉妬したり、叱ったりせず、

そのままの彼女をまっすぐに愛した。

 

自分をこんなにも愛してくれる人を、素直に受け入れられず

自己欺瞞にがんじがらめにされ、くるしみつづけるリーザは、

車いすから立ち上がり、泣きながら

『私を救って』

とアリョーシャに抱きついた。

『アリョーシャ、なぜわたしをちっとも、ちっとも、愛してくれないの』

彼女は狂ったように叫び、アリョーシャを責め続けた。

 

しかし、リーザを救えるのは神だけだ。

アリョーシャの背後に、リーザは神を見ていた。

 

だから、彼女は、自分の自己欺瞞を断罪するために指を潰した。

 

しかし、やがて、その傷をホフラコワ夫人のせいにして、

ヒステリーに陥るだろう。

自己欺瞞は止まらない。自己欺瞞のアリジゴクだ。

 

リーザの将来の姿は、カテリーナ・イワーノヴナの姿である。

 

(終わり)

 

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