
『ごまかしだらけのへちまの名誉』
『カラマーゾフの兄弟』にスネギリョフという男が出てくる。
特徴あるあごひげのせいで、「へちま」とあだ名されている。
彼は、元二等大尉であるが、現在は失業中だ。
へちまは、障害のある妻や娘と9歳の長男を養わなければないので、
やむなく怪しい稼業に手を染めた。
詐欺まがいの取引をしたことで、恨みを買い、往来で、ある将校に殴られてしまう。
友だちと下校していた長男は、愁嘆場をたまたま目撃して
父を助けるために、相手の将校の手に接吻して許しを乞うた。
将校は、決闘をしたければ申しこめばいい捨てゼリフを吐いて立ち去る。
長男は、名誉を守るため父に決闘してほしかった。
へちまは、非を自覚しているので、息子に「人を殺すのは罪だよ」と
もっともらしい言い訳して、その将校と決闘をしなかった。
一家の名誉が汚され、長男は悔しくて涙がとまらなかった。
悲しすぎて、目から水平に涙がほとばしった。
翌日から「へちまの子ども」と揶揄され、学校でいじめられた。
相手の将校の許嫁である貴婦人が、この事件に心痛め、見舞金を申し出た。
その見舞金の遣いを頼まれたのは、その将校の心優しい弟、アリョーシャだった。
思いがけない見舞金を手にしたスネギリョフは、これで家族の治療費を出せるし、
不名誉から逃れるため、この街を出て、一家でやり直せると感激した。
しかし、いざ金を手にすると、長男の泣いている顔を思い出してしまった。
アリョーシャいわく、その日、長男は、なんと無様な父の仇をとるために
将校の弟であるアリョーシャの手に噛みついて大怪我をさせていたのだ。
世間では卑劣漢のへちまでも、長男には、大切なパパだった。
しかし、いま、父親が、今度は、敵の関係者のお仕着せような見舞金を受けとり
またふたたび、一家の名誉を裏切ったと知ったら、息子は、父を赦せるのか・・・。
ごまかしだらけのパパでも赦したい、と願う息子の悲しみがへちまの胸によぎったとき、
彼は、突然、お金を踏みつけて、
『へちまは自分の名誉を売りはしません!』
と叫び、泣きながら家路を駆けていった。
(終わり)
役に立ったらにポチッとご協力お願いします!!
sponsored link
この記事へのコメントはありません。