「好きな食べ物は何ですか?」問題について

なぜ、読書会を主宰しているのですか?

 

という疑問が、もしかしたらあるかもしれないので、お話します。

 

社会について学ぶことなく、社会人になっている。

 

私もサラリーマン生活は10年ほどしていましたが、

サラリーマンになって思ったのは、

つくづく、学ぶ機会がない。学んだことを活かせない。

 

ということでした。

 

私は、転職しながら営業も経理も総務もひと通りやったのですが、

サラリーマンであるかぎり、なにか責任をもって仕事に取り組むのは

おそらく40歳過ぎてから、それでいて、正味10年ほどだと思います。

 

その時に、自分の力を発揮して、活躍できるかといえば、

おそらく、そういう状況にないと思います。

 

終身雇用、年功序列の会社構造は、機能しなくなっています。

なぜなら、長引く不況で、会社の規模が確実に小さくなっているからです。

 

そうなると、ポストもないし、昇進も難しくなります。

実力を発揮して、活躍するというより、

経営縮小する会社でいかに生き残るかという処世で

能力を使い果たして、消耗してしまいます。

 

新しいことに挑戦するとか、リーダーシップを発揮するとか

個人の能力を活かすというのは、二の次になっているのが現状だと思います。

 

そして、資本のグローバル化は着実に進んでいます。

以前は、製造業で稼ぐ『ものづくり大国ニッポン』でしたが、

いまは、人件費や資材調達の都合で、海外に生産拠点が移っています。

製造業は国内に管理部門しか残っていません。

 

伸びている業種は、サービス業です。

こちらは、マニュアル化されたサービスで大規模展開する

マンパワーに頼った経営戦略のチェーン店の独擅場になっています。

 

この2極化で、サラリーマンというのが、

コモディティー(汎用品)になっています。

 

決められた仕事を、決められた通りやる以上の

能力等は、サラリーマンには、求められていないのです。

 

その証拠に、日本でいくら英語を習っても、MBAをとっても

おそらくたいして仕事に役に立たないでしょう。

 

仕事の役に立たないどころか、

せっかくの資格を持て余す人もたくさんいます。

 

学習意欲があって、仕事の後や、休日に、

一生懸命勉強したとしても、今、在籍している会社では

その勉強をまるで活かせないという人が多いのだと思います。

 

そうなると勉強しても、しなくても同じになってしまいます。

 

自己啓発や、営業セミナーなど受ける人もいますし、

起業セミナーや、資産運用セミナーで学習する人もいるでしょう。

 

高い授業料払って、資格取得講座を受けるケースもあると思います。

 

仕事に直結する知識を学ぶために、勉強するのですが、

結局その勉強も、じつは「お勉強」の域をでません。

 

大学の受験勉強と同じで、社会では役に立たないのです。

 

じゃあ、なんでそうなっているかというと、

生まれてこの方、本当の意味で勉強したことがないから

役に立たない勉強しかできないのではないか?

 

と私は思うのです。

 

ここまで読んで、こいつは、何を言ってんだと思う方も多いと思いますが、

英語学習を例として、一つお話したいと思います。

 

 

もう20年以上前になりますが、

今もたまにTVに出ている帰国子女のアイドルがいて

映画の宣伝で来日した、ハリソン・フォードにインタビューしていました。

 

英語がペラペラな彼女が、何をインタビューするかと思って

その情報番組を観ていたら

「好きな食べ物は何ですか?」

 

という素朴な質問でした。

ハリソン・フォードもびっくりです。

 

流暢な英語で、素朴な質問をしていたのです。

 

これを、観たとき私は衝撃でした。

 

なぜかというと、

もし自分が、これからも英語を勉強して

大人になって、ある程度上達した英会話能力で

外国人と会話しても、

たぶん同じように「好きな食べ物は何ですか?」

くらいしか、質問することがないからです。

 

ネイティブスピーカーのような発音で

「好きな食べ物は何ですか?」という

小学生みたいな質問しかできないのがわかって、

将来起こりうる、自分の悲劇として、恐ろしいと思ったのです。

 

その後、大人になって、英会話を勉強しましたが、

ほとんどの日本人は「好きな食べ物は何ですか?」という

以上のことを、外国人に質問できないと思います。

 

(私も、実は「好きな食べ物は何ですか?」

と大人になってから、英会話講師に質問にしましたが

返ってきた答えは、

「日本の刺身は最高だが、日本人は魚を獲りすぎる、云々かんぬん」

このまま、国際問題の日本の調査捕鯨につづく・・・)

 

「好きな食べ物は何ですか?」って、

初対面で会話につまった時くらいしかしない質問です。

その質問が、流暢な英語でされたら、奇妙だと思います。

 

これが、外国人の立場からしたらいかに奇妙かは、

我々日本人が、ネイティブに近い東北訛りの日本語をしゃべる

外国人を、親しみは感じこそすれ、あまり尊敬する気になれないのと一緒です。

(別に東北弁をディスってるわけではありません。)

 

ということは、いくら英会話ができても、

海外旅行先での買い物や映画を字幕なしに観る程度以外に、

たいして役に立つことはないということです。

 

あるいは、せいぜい外国人の友だちができるくらいでしょう。

(その友だちは、ヲタクか東アジアの女性マニアだけでしょう。)

 

それでも、英会話を会社の業務で使うことはあるかもしれません。

しかし、その場合もすでにマニュアル化した受け答えで済むはずです。

 

こうなると、英会話の能力が高いというのは

これは一体、何の役に立つのかということになります。

 

実は、ここに、深刻な問題があるような気がするのですが、

それは、つまりは、こういうことです。

 

いくら英会話能力が高くても、結局、サラリーマンとしては

コモディティー(汎用品)であることに変わりない、ということです。

 

これは、英会話に限ったことではなくて、

税務会計知識でも、法律知識でもそうです。

 

サラリーマンとして、勉強しても、それはサラリーマンとしての

本質的な役割から一歩も出ることのない勉強でしかないということです。

 

その一方で、サラリーマンとして、先輩や上司から学ぶ

最も本質的なことがあります。

 

それは、『サラリーマンとしての処世術』です。

 

こちらは、人間学みたいなものですが、

あくまでも、サラリーマン社会の中でしか通用しない

狭い意味での、出世するための知恵みたいなものです。

 

ただ、酒宴でどこに座るべきかとか、

どうやって社長や取引先の担当者に気に入られるかとか

ほとんど、明文化されていない、伝統芸能みたいなものです。

 

取引先の担当者を接待するために、深夜まで酒を飲むとか

社長や上司のおメガネに叶うように、お世辞を欠かさないとか、

徹底的な無私の精神と、気配りみたいなものが、むしろ重要になってきます。

 

ということは、会社でサラリーマンしている限り

学習意欲があっても、たいして報われないという

皮肉な真実に気がつくということです。

 

この真実に気がつくと、あとは無気力感と戦いながら

あるいは、無気力感をごまかしながら、会社に通うしかありません。

 

なまじっか、向学意欲のある人は、本当につらい状況です。

鬱々としてしまって、給料もらうために、

退職日まで指折りに日を数える事になります。

 

私も、こういう問題で悩んだことがあります。

 

まあ、ただ、なんでこんな社会になっているかは、真剣に考えたほうがいいと思います。

 

いや、真剣に考える必要はないのかもしれませんが、

社会を割りきって生きることは、苦しみから抜け出すためには必要です。

 

人によっては、向学心が空回りして、不完全燃焼を起こしてしまい

反動として、ストレスから人間として、

品性落ちきったような極端な行動に出る場合もあります。

 

自分のやっている仕事に、何ら重要感を見いだせないほどつらいことはありません。

 

多くのサラリーマンは「サラリーマンはそういうものだ」というふうに

会社から洗脳されて、それ以上考えないで、勤め続けます。

 

同じような現象は、サラリーマンでなくても起こります。

 

主婦もそうなるし、医者もそうなるし、政治家もそうなる。

 

あらゆる人間が、思考停止で、目の前の現実だけに振り回されて生きている。

 

これが今の社会であると、私は思います。

 

これが多くの人が漠然と感じている「生きづらさ」の理由です。

 

 

「楽しくない感じ」の原因です。

 

 

本当は、勉強することは楽しいことだし、

わからないことが、わかるというのは、

目の前に新しい風景が広がるような新鮮な感動が伴います。

 

 

はじめて自転車に乗れた時の感動、

免許をとってはじめて海へドライブしたときの感激。

 

それらと同じ質の、喜びの体験が、学ぶことにはあるはずなのですが、

社会人になると、そのような本質的な喜びの体験から遠ざかり

学ぶことが、刻苦勉励の苦行となり、

学べば学ぶほど、報われない現実によって

心がささくれだって、どんどん無感動・無関心につながってしまうのです。

 

 

私は、自分のために学ぶことの喜びを

体験してほしいと思って、読書会をしています。

 

なぜ、読書が喜びの体験になるかというと、

読むという行為が、自分の中の固定観念を壊してくれる

非常に強烈な体験につながるからです。

 

 

「ああ、そういうことだったのか!!」

 

頭のなかが発火するような興奮が、読書体験にはあります。

 

なぜ、自分の思い通りにいかないのか?

なぜ、生きづらいのか?

なぜ、楽しくないのか?

 

これは、すべて今の社会が、どう動いているのか

自分なりに学んで、自分なりの生きる指針をイメージできれば

解決できる問題です。

 

私は、読書を通して、社会の仕組みを学び、人間とはなにかを学びました。

 

ただ、それは私なりの解釈でしかありません。

 

しかし、読書会を主宰しているのは、私の考えを押し付けたいわけではなく、

読書することの楽しみや、学ぶことの喜びを知ってほしいという気持ちからです。

 

職場や家庭以外で、もう一つ、社会人になっても学べる場所があれば

そして、本当のライバルをみつけて、向上心を奮い立たせて、学べる機会がつくれれば、

ささくれだった向学心にも、きっと希望が灯る。

 

臭いこと書いてますが、そういう思いで、読書会を主宰しているのです。

 

フランツ・カフカの『変身』という小説があります。

 

あらすじは、以下のようなものです。

 

父親が事業で破産し、一家を養わざるをえなくなったザムザという青年が

勤め先の社長に借金を肩代わりしてもらい、

その会社に販売営業として就職し、返済のために働きます。

彼の密かな夢は、妹を音楽学校進学させることです。

一家を支えるための責任の重圧に耐えながら働きますが、

なぜか、彼は、ある朝起きたら、大きな虫になっています。

彼は、醜い虫になってもなお、家族に対する思いやりを忘れず、

大黒柱の責任を果たそうとするが、誰とも会話が通じません。

一家は、それぞれ手に職を持ち、生活レベルを下げて、

借金返済のために団結して、新しい生活をはじめます。

やがてザムザは家族への責任から、解放されたことを悟ります。

 

 

こんな話なのですが、この小説を読むことで、

多くのサラリーマンは自分と無縁ではないと

主人公ザムザにたいして同情するのではないでしょうか。

 

私は、学生時代にこの小説を読んでも、さっぱりわかりませんでした。

 

おそらく、こういう働き方をしたことのない、文芸評論家や大学教授が

この小説を解説しても、いまいちピンとこないでしょう。

 

ある朝、とんでもないトラブルが発生して

どうしても会社に行かなくてはいけないのに、

インフルエンザか何かになって動けなくなった

サラリーマン生活をしていて

はじめて、ザムザの気持ちがわかるというものです。

 

私も30過ぎて、ようやく、『変身』という小説に

何が書いてあるのか、身を持ってわかるようになりました。

 

それまでは、読んでいるつもりだったのですが、

全然、読めていなかったのです。

 

読み流して、変な話だなと思っていただけでした。

 

しかし、最近再読して気がついたのは、

この小説は、いろいろな責任やプレッシャーから

毒虫になってしまったサラリーマンの悪夢の物語であるということです。

 

作品に巧妙に隠されている、生々しい意味を感じながらも、

そのブラックユーモアに笑ってしまいました。

 

この『変身』という小説は、今からは100年前に書かれたものですが、

現代に生きる我々に、いまだに訴えてくる不気味さがあります。

 

その意味が、いったい、なにかわかったときに、

きっと、今まで固定観念として考えていた人生というものに

新たな光が当たると思います。

 

小説の読書体験から反射して

自分がこの世に行きている意味を、

問いなおすのです。

 

自分らしく人生を生きるために、問いなおすです。

 

本来なら、職場の上司や先輩から、

社会のことを教えてもらうべきなのですが、

彼らは、彼らの生活で精一杯で、部下や後輩の立場を考える余裕はありません。

 

だから、職場以外で、社会について学ぶ機会があればいいなと思ったのです。

 

読書会を通して、世の中のしがらみや

年齢性別を越えて、社会のことを学ぶことができるはずです。

 

異質な者同士が学べる、社交空間としての読書会を

提供できればと思います。

 

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