チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』読書会のもよう(2019 5 10)

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2019.5.10に行ったチョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』読書会のもようです。

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私も書きました。

『ミレニアル世代の物狂い』

室町時代に能楽が盛んに創作された。山椒大夫に描かれたような人身売買など、社会が混乱を極めた時代だ。やりきれないことがたくさんあった。やりきれないことを、そのまま演劇化したのが能楽だ。

例えば、『隅田川』という能楽がある。

誘拐された我が子を捜して、はるばる京都から隅田川にたどり着いた母が、河原に、愛児の葬られた塚を見つけ、狂気に沈むという悲劇だ。物狂能(ものぐるいのう)と呼ばれる。

理不尽な目にあって亡くなった死者たちを、想像力においてよみがえらせるのが、宗教や能楽の力だった。森鷗外の『山椒大夫』のラストには、安寿と厨子王の母親が、盲目になって足の腱を切られていたという姿が描かれている。彼女は、浜辺で鳥追いをしながら子を懐かしむ歌を歌っていた。

物語の冒頭で、キム・ジヨンに亡くなった女性の先輩や、母親が取り憑くというのは、シーンは物狂能を思い出させた。

会社に勤めれば組織のなかで、なんとか女性が働きやすい環境を工夫しなければならない。経営者に、その意識がなければ、従業員だけ意識変革しても、意味がない。

また法律だけ整えても実態が追いついていないと、ごまかしが起こる。利潤に追われる民間企業では、環境の整備が後手後手になる。

私も3つの職場で、女性の働き方をみてきた。はっきり感じたのは、もう会社で働きたくない、その一言である。会社という組織自体に、欺瞞がある。どこか麻痺させないと、狂いそうだ。

新自由主義というのは、企業中心の市場経済と、それによって生まれた企業体の権力を民主政のベースとした政治体制の推進である。家族の再生産は、労働力の再生産であり、結局企業体の権力の再生産であり、それは政治体制の再生産である。

この再生産のプロセスは、人間を家畜のように管理する抑圧を生み出す。生活が豊かになっても、精神が壊れていくのには、何か、重大な欺瞞が存在するからだと思う。

子供も家族も成さないのがせめてもの反抗だ。日本でも韓国でも進む、「少子高齢化」というのは、無意識のレベルでのこの過酷な環境へのレジスタンスだと思う。ミレニアル世代(1980年以降に生まれた世代)の物狂いは、欺瞞を暴く闘いの開始を告げている。

(おわり)

読書会の模様はこちら。

 

  • 2019 05.12
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