サマセット・モーム『人間の絆』読書会のもよう(2019 1 25)

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2019.1.25に行ったサマセット・モーム『人間の絆』読書会のもようです。

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私も書きました。

「大粒の涙」

 

「君も聞くだろう、世間の奴等は、貧こそは、芸術家に対する最上の刺激だなどというのをね。そんな奴らは、まだ貧の刀剣を本当に、肉体に感じたことのない奴等なんだ。貧が、いかに人間をさもしくするものであるかを、知らないのだ。貧は、とめどなく、人間を卑屈にし、その翼を剪りとり、まるで癌のように魂に、食い入っていく。なにも、金持ちであることを願うんじゃない、ただ人間としての威厳を保ち、心置きなく仕事ができ、鷹揚に、おおらかに、そして独立した人間として、暮らしていけるだけのものが、欲しいのだ。作家にしろ、画家にしろ、私は、ただその芸術だけを頼りにして、食べている人を、本当に心から気の毒に思う。」 上巻P.531

 

これは、フィリップの通っていた学校の美術講師でプロ画家のフォアネの言葉だ。画学生ミス・プライスと安食堂に行って、オムレツを注文したとき、彼女が突然大粒の涙を流した理由を、フィリップは後に知る。

天才とは努力し続ける能力だと自分に言い聞かせて貧困に耐えていた彼女は、すでに魂の芯まで自己欺瞞に蝕まれていた。あの二粒の涙は、飢餓を前に、人間としての威厳が保てなくなっている証拠だった。

ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィッチの一日』の冒頭に出てくるラーゲリの掟の一つを思い出した。「飯皿を舐めるやつ」は生き残れない。山犬フェチュコーフは飯皿を舐めた。だから、自分を律しきれずに、もうじき死ぬと仲間内で思われていた。ミス・プライスも、ラーゲリの囚人のようだ。

一方、ミルドレッドは、シャンパンをわざと残すことでボーイに「お客の柄」をわからせようとする。(P.645)人間としての威厳を保つために、なみなみと注がれたシャンパンを残すのだ。貧しさやひもじさを痛切に感じた人間は、最後の一滴まで舐める。

クロンショーとても、「こんな生活、抜け出られるもんなら、君、間のあるうちに、早くでたまえ」(P.526)と言った。

「はあぁ」、とため息が出る。私自身の人には絶対に知られたくない種類の自己欺瞞と同じものがこの作品には嫌というほどに描かれている。

(おわり)

読書会の録音です。

 

  • 2019 05.09
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