サマセット・モーム『人間の絆』上下巻 読書会のもよう(2019.2.1)

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2019.2.1に行ったサマセット・モーム『人間の絆』上下巻 読書会のもようです。

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私も書きました。

「トラファルガー・スクエア」

 

 昨夜のことが生んだ唯一の影響は、どうやら彼女の中に、彼に対する一種保護者のような気持を起こさせたということらしい。弟や妹たちに対するのと同じように、彼に対しても、いわば本能的な母親の気持を感じているらしい様子だった。(下巻P.641)

 

『一切の時代を通じて、男性が意志の保持者であり、それに対して女性は人類の知性の保持者である』とはショウペンハウエルの言葉だ。(『自殺について』岩波文庫P.17)フィリップは、『未来に生きようとする情熱(下巻P.650)』を吹かしすぎて、幻滅と絶望を繰り返す。それは、彼が意志の人であり、知性の人ではないゆえの悲劇だ。幼くして母を失ったことが、彼の得体の知れない情熱をコントロールする力を奪った。また、蝦足が、自己欺瞞という我が身に刺さる棘のへ内省力の発達を促し、フィリップの感受性を過敏にした。

フィリップは、光源氏のように、無意識に母への憧憬をこじらせている。それが彼の意志の空回りに表れている。恋も仕事も中途半端で、幻滅と失望の泥沼をのたうち回るのは、母への憧憬ゆえなのかもしれない。心の平和を見つけられない、他人にそれを求めても失望する。ショウペンハウエルの『ヤマアラシのジレンマ』である。ミルドレッドを憎しみながら強くひかれるのは、そのせいだ。

帰る場所のないホームレス同然の彼を心配してくれたアセルニー一家こそ、唯一の救いだった。サリーとミセス・アセルニーという人類の知性に保持者の女性の網にかからなければ、フィリップみたいな取扱注意のこじらせ男は、始末に負えない。『母性的姉妹的な』(p644)家族愛の厚みによって、彼の自己欺瞞の棘だらけの魂は、居場所を見つけた。

トラファルガー・スクエアは、ナポレオンからイギリスを救ったネルソン提督のトラファルガーの海戦の勝利(1805年)を記念してつくられた。最終部(下巻.659)にて、この広場でフィリップは、ミルドレッドに似た女性を追いかけ、サリーにプロポーズする。村上春樹の『国境の南 太陽の西』で主人公が元カノであるイズミの幽霊と島本さんの混合物を追いかけるシーンのようだった。最終シーンに、この広場の夕暮れが選ばれたのは、意志と、人類の知性との調和に対するイギリス人の歴史的な表現なのかもしれない。

(おわり)

読書会のもようです。

 

  • 2019 05.09
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