2019.11.15に行ったエミール・ゾラ『ナナ』読書会のもようです。
私も書きました。
「バラエティーの終わり」
ヴァリエテ座。オペレッタ(軽歌劇)を上演する劇場である。ヴァリエテは、英語のバラエティー。要するに現代のバラエティー番組みたいなものだ。吉本興業のお笑い芸人やジャニーズのアイドルや女子アナなどの繰り広げる歌と踊りと笑いのTV番組とゴシップが日常が、そのままヴァリエテ座の中の人間模様のようなものである。
女優ナナがグランド・ホテルで死んで、彼女のライバルの女たちは、奇妙な連帯意識にとらわれる。 『……あたしたち、あんまり仲が良くなかったけど、がっくりしちまったわ……(P.710)』女優としてのナナのライバルだったローズ・ミニョンのセリフだ。仲は良くなかったけど、まるで自分のことのように、ナナの死を感じている。次は自分の番だからか。
その一方、男たちは玄関に、無責任にたむろして、デモの荒れ狂う通りを見ながら政治談義にふける。
(引用はじめ)
事実、御常連はみんなそこで再会したのだ。大通りの騒ぎをちょっとみようとぶらぶらやってきた彼らは、互いに呼びあい、この哀れな娘の死をきいて驚きの叫びをあげたのだ。そして、彼らはやがて政治は軍隊の作戦など話し始めるのだ。(P.701)
(引用おわり)
ナナの同棲相手だった喜劇役者フォンタンは、ベルリン奪取の戦闘プログラムを話し込んでいる。TVのワイドショーで勇ましいことをいう、落語家くずれの芸能人コメンテーターみたいである。
政治権力と芸能の癒着。金融バブルの崩壊。一つの政治体制の崩壊。第二帝政の崩壊。ある時代の終わり。
ベルリンへ! ベルリンへ! ベルリンへ!
(引用はじめ)
――ああ、神さま、何とぞ皇帝陛下に勝利をお与えくださいますよう! 帝国をお守りくださいまし!
すべての女はこの祈願を繰り返した。(P.707)
(引用おわり)
女たちの祈りもむなしく、フランス軍は開戦後すぐに惨敗、皇帝が捕虜となり、退位して、第二帝政は幕を閉じる。
ナナとその周辺の崩壊は、第二帝政の崩壊そのものだった。彼女の演じたのは、悲劇のようでやっぱり喜劇であった。
(おわり)
読書会の模様です。