大江健三郎『個人的な体験』読書会のもよう(2017 7 14)

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2017.7.14に行った大江健三郎さんの『個人的な体験』読書会のもようです。

メルマガ読者さんから頂いた感想文はこちらです。

私も書きました。

『死の欲動《 Θάνατος 》』

障害をもって生まれた赤んぼうから、逃げたいという鳥(バード)は、やめていたアルコールに手をだし、なおかつ、かつて暴力的に処女を奪った大学の同級生、火見子の家を転がり込む。現実逃避に傾いていた鳥(バード)には、この時点で、自殺フラグが立っていた。

精神分析医のフロイトは、人間のなかにある「死の欲動《 Θάνατος タナトス》」について解説している。「死の欲動」は、破滅への衝動であり、サド・マゾ関係として表現される。鳥(バード)がバス停の前で「最も反社会的な性交」を欲したのは、潜在的な自殺願望からである。現実社会での劣等感と無気力というマゾヒズムの傾向が、振り子のように反動的に暴力的な性衝動というサディズムに現れた。赤んぼうの死を願うことは、己の死を願うことでもある。恐怖からの逃避は、自己欺瞞であり、その果てには自殺が待っている。

「鳥(バード)、恐怖心を克服するためには、その対象を正確に限定して、恐怖心を孤立させなければならないわ」

自殺で夫を亡くしている火見子は、鳥(バード)の恐怖心を理解していた。このままだとこの鳥(バード)は、彼女の夫と同じく、自殺する、と彼女は予感した。夫の死を乗り越えてきた彼女は、特殊な性行為で、鳥(バード)のサディズムを満たしてやり、彼の恐怖心を限定してやった。彼女は、社会に適応できない仲間たちの恐怖によりそい慰めることで、自殺した夫への償いの代りとすることを、使命としていた

「そうよ、鳥(バード)。あなた今度のことがはじまってから、まだ誰にも慰められていなかったのじゃない? それはよくないわ、鳥(バード)。こういう時、いちどは過度なくらい慰められておかないと勇猛心をふるいおこして混沌から抜け出さねばならない時に、ぬけがらになってしまっているわ」

赤んぼうを見殺しにして、アフリカに旅立ったとしても、あるいは、無責任な態度で家庭に戻ったとしても、鳥(バード)は、わりと早い段階で、死の欲動にかられて、自滅しただろう。鳥(バード)の左手が右手を掴んだ瞬間があった。

(おわり)

読書会の模様です。

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