
2019.6.28に行ったエミール・ゾラ『居酒屋』読書会のもようです。
私も書きました。
『悪魔のひき臼』
先日1968年にブラジルへ移民した日本人の50年を追うドキュメンタリーを見た。一攫千金を狙って船に乗った人びとの多くは、夢敗れていた。農業をやった人は、農産物の価格の下落や、インフレで、ほぼ失敗。起業した人も強盗に襲われたり、詐欺にあったりで、財産を失っていた。家族が交通事故や病気でなくなるという不運に見舞われる人も多かった。
地元を離れて、成功するというのは、リスクの高いことだ。良き仲間に恵まれ、信頼関係を着実に築き上げ、常に学んで、知恵を身に着けないと、持続的な発展はみこめない。まぐれで成功しても、10年とは続かない。交通事故で夫を亡くし、女手ひとつで4人の子を育て上げ、生き抜いた御婦人の一人は、敬虔なカトリックになっていた。
ランチエは、帽子工場の経営に失敗して、詐欺師になってしまった。最初からジェルヴェーズを騙すつもりで近づいている。お金がないから、ジェルヴェーズは、ランチエを間借りさせてしまう。浪費による借金は、人間を堕落させ、麻痺させていく。ジェルヴェーズは、金と男をどうにかすれば、クリーニング屋だけで成功できる素質があった。庶民が金とセックスと酒によって破滅していくさまがよく描かれている。
資本主義は、欲望を煽り、分不相応の消費をさせることで、経済をまわしている。政治も経済に支配される。酒や薬物は、人の気を大きくする。私も酒が好きなので、気をつけているが、酔うと気が大きくなる。欲望や願望が、簡単に叶うと錯覚してしまう。
読み書きして学び続けないと、騙される。騙されるだけならまだしも、騙されて困ると、今度は人を騙す側になってしまう。ジェルヴェーズは、虚栄心の味を知ってしまった。この虚栄心に、人は苦しみ、堕落していく。
巡査の背後で図々しく盗みとるこの貪欲な愛撫は、フランスを淫売屋にした第二帝政にたいする彼の復讐であった。(P.619)
結局 第二帝政は、普仏戦争を起こして、庶民を「悪魔のひき臼」に投げ込んでいった。
(おわり)
読書会の模様です。