2019.4.5に行った太宰治『水仙』読書会のもようです。
私も書きました。
『二十世紀に芸術の天才はいない』
NHKのBSで『大人計画30周年』という特番をやっていた。そのなかで、『2006年の大人計画フィスティバル』という、都内の廃校を使った文化祭のようなイベントのドキュメンタリーの再放送をやっていた。大沢たかおさんが番組のナレーターだった。彼は20代のころ、大人計画に所属していて役がもらえず、1年余りで退団したということをナレーションで告白していた。大人計画のみんなの才能についていけず、逃げ出すように退団したようだ。それを、聴いて、私は驚いた。
番組後半に、大沢たかおが、十何年ぶりに、楽屋を訪れて劇団員と再会し、微妙な空気になるというシーンがあった。
そしたら、最後に、「大沢たかおの経歴に関することはフィクションです。」と、テロップがでた。
「やられた!」と思った。NHKもこんなことやるのか!?
録画したものを何回かに分けてみていたので、私は、ほんとに、「大沢たかおは大人計画から逃げ出したんだ。だとしたら、大沢たかおの黒歴史だなー」と思って見ていた。
大沢たかおが大人計画に在籍していというのは、全部、劇団の仕組んだ、ドキュメンタリー上の演出だったのだ。メタフィクションだ。
所々にリアリティーがあり、演出に釣りこまれてしまった。『若き日の大沢たかおがプライド故に自分の未熟さを受け入れられず退団した』という告白に、えもいわれぬリアリティーがあった。「しじみの肉を食べたら、気味悪がられ、傷ついた」というリアリティーに近い。
二十世紀に芸術の天才はいない。天才にふさわしいリアリティーが演出できれば、作品の質は問われない。
現代芸術は、『作品』より『演出』だ。バンクシーのニュースで一目瞭然だ。
アトリエの研究生を取り巻きにして、菜葉服を着て、静子自身が天才だというウソを本気で信じきり、それを流行作家の筆によって周知させれば、世間で流通するような天才は、誕生する。
静子の天才伝説の、最後の協力者は、この流行作家だろう。
絵が一枚も残っていないからこそ、天才画家だ。
流行作家が、水仙の絵を破って、天才画家が真に生まれた。
『大人計画』を、みなが嫉妬を禁じえないような才能あふれる劇団に錯覚させたのが、大沢たかおのナレーションだったように。
(おわり)
読書会のもようです。