2018.5.11に行ったモーパッサン『脂肪の塊』読書会のもようです。
私も書きました。
「ボナパルティズムの崩壊」
主権国家同士の戦争なぞ、勝っても、負けても、結局無産階級の一般庶民にとっては災厄である。インフレや物不足で生活に支障をきたすだけでなく、徴兵や徴用を強いられるのだ。誇り高い愛国者であり高級娼婦であるブール・ド・スイフも戦争の悲惨な被害者になってしまった。
ブルジョワという言葉がある。資産家階級だ。ブレヴィル伯爵は、不動産収入、カレ・ラマドンは、工場経営の事業所得があるブルジョワ。富裕な商人のロワゾオは、プチ・ブルである。
こういう人たちは、賃労働者ではない。蓄財していて、戦時を堪えることができ、うまくすれば、戦争で儲けることもできる。
戦争が起こっても、買い占めや投機で先回りして儲けることができる、利に聡ければ敗戦でも儲けられるのだ。焼け太りだ。
一方、ブール・ド・スイフも、たけくらべの美登利のように、遊郭で暮らさなければならない娼婦ではなく、プチ・ブルといえば、プチ・ブルなのだが、ブルジョワと尼僧の共謀にはめられ、人身御供にされて、喰われてしまった。
気の毒な話だが、彼女のように愛国心や信心を利用されて、庶民はだまされるのである。愛国心で自らを鼓舞する庶民が、愛国心故に、いっそうひどくだまされる。戦争は、愛国という自己欺瞞を活用して、庶民の尊厳を無残に踏みにじる。
最終部分のラ・マルセイエーズが、特別な意味を持つ。ラ・マルセイエーズは、フランス革命の八月十日事件の主役となった地中海の都市マルセイユ連盟兵の歌だ。国をまたがる王族とそこにびっしりとシロアリのようにたかる(第一身分の僧侶、第二身分の貴族の)既得権益を解体して誕生した革命国家フランスの栄光と市民の勇敢を歌っている。
普仏戦争で負けたフランスは、帝政から共和政に回帰した。
ボナパルティズムという勢力均衡型の独裁が終わり、無産階級の庶民と、ブルジョワの階級闘争がはじまる。馬車の中の友好関係が失われたところは、ボナパルティズムの崩壊を暗示している。
(おわり)
読書会の模様です。