2017.9.22に行った永井荷風『濹東綺譚 (ぼくとうきだん)』読書会のもようです。
私も書きました。
「文科綺譚」
『濹東綺譚』は、昭和11年が作品の舞台となっている。その年の2月に二・二六事件がおこり、霞が関の参謀本部などが、陸軍皇道派たちによって占拠された。クーデター、鎮圧された。世相が暗くなり、市井の庶民は、世情に憚って本当のことを言わなくなった。翌年には、盧溝橋事件が起こり、日中戦争がはじまる。
今日で言うところの言論の自由とか、思想及び良心の自由などが、どんどん制限される重苦しい雰囲気が伝わってくる。
お雪は、民家の窓から顔を出して、道行く人に声をかけ、客をとっている。もとは芸者だったというが、長唄も清元も知らないので実際は、怪しい。溝から沸いてくる蚊のぶんぶん飛んでいる中で、生活しているのである。
今で言えば、歌もダンスも苦手な自称元タレント(なんとか48)の女の子が、場末街の飲み屋に住み込みで勤務して、何人かのお客と深い関係になりながら、生計を立てているようなものである。
遊学経験もあり大学で教鞭もとっていたとおぼしき作中の老小説家が、そんな女性の生態に興味を持って、着物代として、現在にして10万円の小遣いを与えるのである。
そういえば、元文科省の事務次官が、現役時代に新宿歌舞伎町のガールズバーに通っていたという話が新聞にすっぱ抜かれていた。
あくまでも職務の一環として、視察目的でガールズバーを訪れ、馴染みになった女性とはカラオケなどして、生活ぶりをヒアリングして、5000円程度の小遣いを与えていたのだという。奥さんにも貧困調査であると目的は伝えて、許可を得た上での行動だったと本人は弁明している。下情に通じるためのキャリア官僚の涙ぐましい努力である。
小説内小説にふさわしいネタである。元キャリア官僚が、不祥事で役職を辞す。退職金を手にして、歌舞伎町のガールズバーの女の子と『失踪』。
その小説の結末を書きあぐねる、自称小説家の私が、職務質問にあって、交番でねちねち巡査に問い詰められるオープニング。
やがて突然の夕立。さしたビニール傘に入ってきたのは、さっしー似の女で……。
(おわり)
読書会のもようです。
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