
2017.8.25に行ったスタンダール『赤と黒』読書会のもようです。
私も書きました。
『書いた 愛した 生きた』
マチルドは、彼女のご先祖様であるボニファス・ド・ラ・モール公が、政変で殺され、その生首を受け取りに行ったマルグリット・ド・ナヴァールの物語に憧れ続けていた。彼女の名前マチルドは、マルグリットに由来する。
家柄のいい人にも、深い悩みがあるもので、彼らは、ご先祖様の因縁を背負って苦しんでいるようなのだ。私のような庶民には、なかなか理解できないし、ジュリアンにも理解できないが、歴史的な因縁を、意志として引き受ける一群の人々がいる。それは、フランスのみならず、世界の血統主義的支配階級の宿命だ。
ロマンチシズムというのは、バカという意味だと聞いたことがある。確かに、マチルドは、おバカである。自尊心と歴史的な因縁の烈しい圧力の中で、空回りを演じて、周囲をかき乱す。生まれが良すぎて苦労したことないかわりに、心の奥底に、新たな革命にたいする恐怖と絶望が、渦巻いている。そして、若さを持て余していて、すぐに無軌道になる。
また、退屈を殺すために、恋人をも殺しかねない。
ジュリアンの生首にキスして、ご先祖様の伝説を、自分で演じるという本懐を遂げた。マチルドは、サロメみたいな女で、とにかく恋人の生首にキスしたかったとしか思えない。
エロスとタナトスが融合した人間である。ジュリアンは、マチルドの血の宿命に思う存分翻弄されて、悪胤を残し、死んでしまった。
一方、レナール夫人は、聖心女子大学みたいなゴリゴリのジュズイット学校出身の敬虔なお嬢様なのだが、ナポレオンを崇拝するジュリアンの野蛮な情熱にやられて、身を持ち崩した。ジュリアンの栄達を邪魔することで、復讐を遂げたが、逆上したジュリアンに銃で撃たれてしまう。
ジュリアンは、結局のところ、早く死にたかったのである。ロマンチシズムというのは早く死ぬことだ。「もっと早く死ぬべきなのに何故今まで生きていたのだろう」と遺書の余白に書いた夏目漱石の『こころ』のKにもジュリアン・ソレルくらい華々しい死が用意されていたらよかったのに、と思わぬでもない。
(おわり)
読書会のもようです。
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