2017.8.17におこなった森鷗外の『山椒大夫』の読書会のもようです。
私も書きました。
パチンコパーラー『SANSHO』
父親が事業に失敗して失踪したあと、母と安寿姉さんと、僕(ずしお)と3人は、福島から新潟の上越まで夜逃げしてきた。姉さんと私は、金融業者の山岡さん車に乗せられ、舞鶴へ。母は、友人を頼って、直江津港からフェリーで佐渡に渡った。私たちは、舞鶴市にたどり着き、山岡さんの紹介で、パチンコパーラー『SANSHO』に住み込みで働き、父の残した借金を払うことになった。総額2350万円。安寿姉さんはコーヒーレディ、僕は、ホールスタッフになった。仕事は、キツかった。さらに、社長の息子、三郎専務のパワハラは凶暴そのもの。姉さんも僕も、ブチキレた三郎から、額にタバコで根性焼きを入れられる夢をシンクロしたほどのバイオレンスだ。そんなこんなで三年働き、七割方返済。ある日の夜、姉さんが急に大人びて、きれいになったのに気づいた。買物に行こうと誘われ、一緒に寮から外出すると、ドンキの駐車場に、最近、店を出禁になったパチプロがいた。「この人、二郎さん。パチプロやめてお店やるの。あたしと結婚する。街を出て自由になる。それにあたしは、もう、安寿じゃない。アンジェリーナ・ジャスミン……」それから、「これがあんたを守ってくれるはず。ほら、地蔵尊のここに、あの時の夢の根性焼きの痕…」と姉さんは、僕の手に本尊を握らせて、涙ぐんだ。
さよなら、安寿姉さん、じゃなくて、A・ジャスミン。
とりあえず、母さんに会おう。僕も荷物をまとめて、寮を飛び出し、電車を乗り継ぎ、フェリーで佐渡へ渡った。
足を棒にして、佐渡中を訪ねて回った。
夜更けの街を歩き、たまたま見つけた看板。カラオケスナック『姥竹』
さびれた店のドアを開けた。歌が流れてくる。
安寿恋しや、ほうやれほ。
厨子王恋しや、ほうやれほ。
鳥も生あるものなれば、
疾う疾う逃げよ、逐わずとも。
母が、カウンターの中でマイクを握り、歌っていた。
姥竹さんはボックス席で失踪したはずの父に水割りを作っている。
「ずしお」という叫びが母の口から出た。二人はぴったり抱き合った。
(おわり)
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