城山三郎『官僚たちの夏』読書会のもよう(2019 12 13)

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2019.12.13におこなった城山三郎『官僚たちの夏』読書会のもようです。

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私も書きました。

民族派通産官僚の美徳

1938年の国家総動員法成立の直前の1937年に商工省(のちの軍需省→通産省)に入省した風越信吾=佐橋滋を中心とする通産官僚の群像劇である。

物語は、民族派=統制派の風越と、国際派=自由貿易派の牧、片山の対立が軸である。通産官僚としての風越は、戦時経済体制の統制的価値観をひきずっている。貿易自由化による外資の脅威と、過剰生産による過当競争のつぶしあいという2方面から、民族資本を守るため、通産省の独自の主導権を確立しようとした。彼が起案した指定産業振興法という法律をめぐって、政官財が火花を散らす。

スポンサーなき立法、すなわち官僚主導の産業政策を強力に進めるための法律の成立のため、風越は、通産省内の人事を自分の子飼いの部下でかため、政財界に働きかけるが、彼の高圧的な態度は各方面から誤解を招き、一度は、事務次官のポストも失いかけた。

指定産業振興法は、国会に提出されたが、採決されず結局、廃案となった。個人主義で西欧かぶれとみられている牧や、片山のほうに私は好感をもった。最終部分は、フランス経済の官民協調を研究した牧ら、国際派官僚の時代が来て終わるという流れになっている。

風越のような民族派の辣腕は、一歩間違うと、超国家主義者である。つまり、民主的統治というより植民地統治のような強権的な意識が透けて見える。高度経済成長期は、こういう官僚も重要なのかもしれないが、現在に風越みたいな人がいたら、どうだろう。風越の子飼いの部下は、みな過労による殉職であった。天下国家のために無定量・無際限に働いたあげく、戸板で担がれて帰宅というのは、戦前の超国家主義の時代から官僚だった人たちの美徳のような気がした。自分だったらまっぴらごめんである。

『通産省と日本の奇跡』を書いたチャルマーズ・ジョンソンによれば、風越のモデルである通産官僚、佐橋滋は、単なる統制官僚ではなく、経済環境の変化に対応して産業構造を変えた有能な官僚だということだそうだ。

指定産業振興法が廃案になった以上は、この小説は、風越の敗北の物語なのだが、通産省が『行政指導』という法的に根拠のない手段で、日本株式会社の産業構造の変化をリードする道筋をつけたという功績は、佐橋滋氏のものだという。

現在の通産省も、未だに風越のような統制的価値観を残しているように感じる。安倍首相の秘書官件補佐官、今井尚哉(たかや)氏は、経産省出身で、この作品で風越の同期で先に事務次官に就任した玉木こと今井善衛氏の甥である。安倍総理の祖父は、御存知の通り、戦前の東條内閣で商工大臣を務め、戦時経済体制を作り上げた岸信介だ。現在の産業政策も、戦前の商工省の人脈を色濃く反映して行われている。目下、日本は経済産業省中心に、日本経済の立て直しを図っているが、国際的な経済環境の変化に対応しているのだろうか? 『一億総活躍社会』は今井秘書官の作ったキャッチコピーだそうだ。全体主義的なコピーのような気がするが、このご時世なら仕方ないのか。

 (おわり)

読書会の模様です

  • 2020 04.20
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