スタンダール『パルムの僧院 上巻』読書会のもよう(2020 2 7)

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2020.2.7に行ったスタンダール『パルムの僧院 上巻』読書会のもようです。

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私も書きました。

「髪粉と謀略と情熱と」

サンセヴェリーナ・タクシス公爵はパルムの宮廷で干されていた。理由は二つ。以前ナポレオンの胸像を一万フランで買ったこと。フェランテ・パラという反権力詩人にお金を渡していたこと。彼の履歴にある自由主義的な傾向が、彼の受勲を妨げていた。彼は徴税請負人の孫で、苦労して公爵まで成り上がり、資産も十分あったが、勲章だけはもらえない。だが、ジーナ・デル・ゴンド嬢(ピエトラネーラ伯爵未亡人)と偽装結婚して、自薦大使として、他の国に赴任することで、叙勲対象者となるようにパルム小公国の総理大臣モスカ伯が取り計らったのである。

大使に就任すれば、それは、叙勲資格であるである。こうして利害が一致して、68歳のサンセヴェリーナ・タクシス公爵とピエトラネーラ伯爵未亡人は、偽装結婚を受け入れる。結婚当日、新郎は大使として赴任していき、それきり彼らは仮面夫婦である。彼女は、その美貌と才知によってパルム宮廷の花形となり、そしてモスカ伯の愛人におさまる。こうして、彼女も、ナポレオン没落後の政治体制と折り合いをつけて、ほぼ無一文の身からから這い上がった。

髪粉というのは深夜の通販番組で紹介しているスーパーミリオンヘアーみたいなものらしい。貴族は、髪粉をふって、小麦粉で固めてセットして白髪や薄毛を隠したという。この髪粉を、サンセヴェリーナ公爵夫人は、旧体制の象徴のように毛嫌いしている。

パルム大公エネルスト4世は、ルイ14世の崇拝者で、太陽王の肖像画の真似をして表情を作るような人だ。ミラノ公の一族の流れをくむというルキノ・ヴィスコンティという映画監督がいて、『ルートヴィッヒ/神々の黄昏』という映画を監督している。この映画のモデルとなったルートヴィッヒ2世というバイエルン王も、ルイ14世を崇拝するあまり、ヴェルサイユ宮殿を模したリンダーホーフ城というのを建設して、そのなかにルイ14世の像も立てて、いつもに、話しかけていたらしい。ふたりはそっくりだ。

ルートヴィッヒ2世は、晩年、狂気に沈んで謎の死を遂げた。パルム大公、エネルスト4世も、革命への発作的な恐怖に取り憑かれ、モスカ伯になだめられないと、これまた正気を保てない情緒不安定。革命への恐怖によって乱れた頭に、髪粉をかけてなだめ、大公の精神状態をメンテナンスするのが、寵臣モスカ伯の仕事だ。

世の中には、貴族趣味として、ルイ14世が好きな人もいれば、英雄願望として、ナポレオンが好きな人もいる。何かの影響を受けなければ、自分たり得ないという、悲しい性の持ち主は、想像力を拗らせて、でかい城を建てたり、断頭台を恐怖したり、ワーテルローに従軍して、周囲に迷惑を掛ける。

モスカ伯の腐心する宮廷工作や謀略は、現代からすれば、なんだかよくわからないである。勲章の欲しい貴族に、自分の愛人をあてがって、追い払うという、こんな離れ業みたいな政治的手腕というのは、怪物じみている。

それと同じくらい、ファブリスの情熱も、やはり怪物じみているのである。ファブリスを助けようとするブラネス師や酒保の女や、ロドヴィコといったキラリと光る脇役が、彼の怪物じみた英雄的行動を支えている。

登場人物が極端な性格で、そこに謀略と情熱が絡み合って、フランス革命とナポレオンの時代が好きな読書家には、非常に読み応えのある作品だった。

  (おわり)

読書会の模様です。

  • 2020 04.21
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