フォークナー『八月の光』読書会のもよう(2019 8 30)

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2019.8.30におこなったフォークナー『八月の光』読書会のもようです。

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私も書きました。

『俺は、自分のなりたい人間になろうとして生きてきた』

 

『いや、もしここで降参したら、俺は、自分のなりたい人間になろうとして生きてきたこの三十年を無駄にしちまう』。彼は言った。 (第12章)

 

この作品に出てくる人物は、みな負けを背負っている。それは、南北戦争の敗戦からずっと、である。鉄道や製板工場がもたらした産業資本に負けて、奴隷解放闘争に負けて、狂信的なキリスト教信仰の抑圧に負けて、皆がなにかに、自分のこころの一部を屈服され、誇りを傷つけられて、生きてきた人たちの物語だ。

原住民がまばらにしかいなかった、だだっ広い土地に、どこからか移民がやってきて、アメリカの南部に共同体ができあがった。黒人奴隷を使ったプランテーションによって繁栄し、南北戦争とその結果の黒人奴隷解放によって没落したアメリカの南部の架空の街ジェファソン。この街で、自分のなりたい人間になるとは、どう言う意味なのだろう。

ジョアナ・バーデンは、クリスマスに黒人として、クリスチャンとして生きることを強制した。それは、彼のなりたかった人間像ではなかったのだ。だから彼女は殺されてしまった。

絶望の後に狂信が現れてくる。ジョアナ・バーデンもドッグ・ハインズも祈らずにはいられなかった。正気を保てないような深い絶望が、彼らを狂信者にしていった。クリスマスも、狂信の中で生きざるを得なかった。しかしかれは、明確に信仰を拒否した。その結果、世間から捨てられた人間として、ひっそり暮らしていた背信者ハイタワーが、クリスマスの最後の拠り所として、偽証する元牧師として、選ばれて、その結果、自宅が惨劇の舞台になってしまった。

2017年8月12日(土)、ヴァージニア州シャーロッツビルで、大規模な白人至上主義者の集会があった。その集会に反対したアンチ・ファシズム団体の抗議デモに、白人至上主義者の若者の運転する車が突っ込んで、女性が亡くなった。フォークナーの描いた南部の暴力がむきだしの事件だった。

共同体の正義と秩序を狂信するパーシィ・グリムの登場が、再読してみて、やはり怖かった。この右翼州兵が自警団を組織して、逃走したクリスマスに、テーブル越しに5発拳銃を打ち込んだ上で去勢する、という陰惨なシーンは、フォークナーがでっち上げたフィクションではない。どの共同体にも潜在する差別と暴力を肯定する、歪んだ正義を描いている、と改めて読み直してみて痛感した。

何かになろうとして、どこまでも続く道を当て所もなく走り続けるしかない。クリスマスは自由になりたかったのだろう。でも、彼の自由を阻むものとして、黒人差別、産業資本、キリスト教、敗戦の歴史が立ちはだかった。正気を保てないような厚い壁に阻まれて、佇む人間の生き様を、残酷に描き出している。この壁のいくつかは、目下、資本主義の危機の中にある、私たち日本人の眼の前にも立ちはだかっている。

(おわり)

読書会の模様です。

 

  • 2020 01.20
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